民話 古僧都(こそず)の狸
古僧都路は、立花町山下から清水山、蒲池山を越えて三池へ出る古道をいいます。昔はその山道を古僧都越えと言っていました。
ある日、とんちのきく商人が山中で若い娘と会いました。こんな山の中に若い娘が一人でいるわけはない。これは狸が化けているなと思って、なにくわぬ顔して近づいて行きました。
「あんたはいたずら狸じゃろ。わしは狐じゃがそんな下手な化け方ではすぐに人間に見破られて、捕らえられてしまうよ。私を見なさい。あんたは私をだまそうとしたが、反対に私に見破られた。ほーうれ、、よう化けてるじゃろうが。」と言いました。
狸はびっくりして商人を見ました。なる程、人間から荷物までそっくり本物のようでした。狸は、これは俺の負けと思ったのか、両手をついて
「俺の負けじゃ、狐どん、俺にひとつその化け方を教えてもらえんかのうー。」とたのみました。
商人は、えらくたやすく引っかかったわいと思いましたが、
「いいとも、簡単なことじゃが、一つしんぼうせにゃならんことがあるのだが、狸さんはそれが出来るかのー。」
と言いました。
すると狸どんは
「狐どんのように上手に化けられるならしんぼうするから教えて。」とたのみました。
それなら教えようと言って荷物の中から袋を取り出して、
「この化け」袋に入って呪文を唱えたら、すぐに上手になれる。この袋の口を開けるから入りなさい。」
「それだけかい。」と言いながら狸は袋の中に入りました。
商人は、しめしめと独り言を言いながら、すぐに袋の口をしっかり縄でしばり、
「ちいとばかりしんぼうするんじゃぞ、すぐに呪文を唱えて出してやるからな。」と言って、三池の町まで袋の口を開けてくれませんでした。
そして、家に帰って狸汁にして、皆でふうふう言ってくうてしもうたということです。狸どんは良い格好をしようとしたばかりに、命まで取られたとさ。
「ふるさとの昔ばなし」-瀬高の民話と伝説ー瀬高町教育委員会発行より。