民話 恩を忘れぬカッパ
あぜ道の花を枕に昼寝していた狐は、目を覚ましあたりを見回していましたが、「やあ!カッパ君、久しぶりだね。相撲をとろうや。」と、水の上に顔だけ出して休んでいたカッパに話しかけました。
「よかろう。久しぶりに一番取るか。」とカッパは頂水(ちょうすい)をこぼさぬように岸にあがりました。
悪がしこい狐は、南は宇津の橋(長島にある橋)から北は瀬高まで、東は広安から西は栗の内あたりまでを縄張りとして、花嫁さんに化けたり、おじいさんに化けたり、明るい月夜に雨を降らせたりしていたずらをしていました。そんなことは、頭の良い狐にとってはたやすいことでした。
カッパは、釣殿宮(つりてんぐう)付近の飯江川に住み、長島、古島(ことう)、新川すじをわがものとして恐れるものもないようなふるまいをしていました。
人の足音がすると、ドブーンと深みに飛び込んでおどし、驚いて一目散に逃げる人を、柳の根元から眺めてニヤリと笑ったりしていたずらばかりしていました。
さて、相撲が始まりました。狐のずるいやり方で、カッパにとっては命より大事な頂水がこぼれてしまい、力が尽き果て殺されそうになりました。
その時、岸に腰をおろして眺めていた白ひげのおじいさんが、杖をたたいて大声でどなりました。
「狐よ待て!そんな技は相撲の禁手だ。やめろ!」と狐とカッパは飛び上がって驚きました。
狐は森へ、カッパは水の中へ逃げ込みました。
白ひげのおじいさんは、これでよしとばかり立ち上がり杖をついて帰っていきました。
彼岸の弓張月(弓を張ったような上弦・下弦の月)は、御牧山の上の白雲の中にかくれています。
家に帰ったおじいさんは、すすけた行燈(あんどん)の芯をかきたて、しぶ茶でのどをうるおし、晩酌を楽しみ、塩づけににぎりめしに、おくもじ(高菜漬)で食事を終えると風呂に入り、弓張り月を心ゆくまで眺めて床につきました。
後は高いびきです。ぜいたくを知らないおじいさんは、自然を友として心の向くまま歩き回るのが毎日の楽しみでした。
夜中のことです。さまんこ(外からの侵入を防ぐ窓)の外から声がします。おじいさんは目をさまし
「だなたかのう。」と、言いながら火打ち箱を引き寄せ火をおこし、付け木に移して行燈に火を入れ、声の主を招き入れました。
現れたのは真面目そうな青年でした。青年は、両手をついて
「私は、今日の夕方、たわむれ相撲が本気になり、危うく狐に殺されそうになった時、おじいさんの大かつ一声で命を助けていただいたカッパです。そのお礼にあがりました。
それから、私の願いを聞いてください。その願いとは、世の中にはいろいろな不幸を持つ人がおられます。その不幸な人々をお助けてください。」と言いました。
おじいさんは「不幸な人とはどんな人のことか。また、どうすれば助かるのか。」とたずねました。
青年は、かしこまって言いました。「手や腕や足の骨を折ったり、腰を痛めて仕事ができずに苦しんでいる不幸な人々を、一日も早く元気にしてあげてください。その秘伝は”
○○○”です。
この秘伝の”
○○○”は、あなた様の子孫の方へ次々におゆずりください。」と言うと、ていねいにおじいさんを拝み、カッパ青年は姿を消しました。
後年、ある村に骨折の名医として知られたお医者さんが出られましたが、このお医者さんは、白ひげのおっじいさんの子孫だと言われています。
「ふるさとの昔ばなし」-瀬高の民話と伝説ー瀬高町教育委員会発行より。