千寿の楽しい歴史
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2010年 12月 28日 ( 1 )
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長田山の竜神と子どもたち
童話   長田山の竜神と子どもたち      

鶴 記一郎著

「ふるさと昔ばなし」にみやま市瀬高町の鶴 記一郎氏が投稿したものです。
 著者は亡くなりましたので、福岡市在住の娘さんの承諾を得てあげています。


昔から清水山の東北の約1kmにわたる山並み一帯を“ながた山”または“ながち山”と詠んでいます。

「なが」とは、古代インドのボン語では竜のことです。ながた山あたりの山と平野を支配していた竜神が、山頂の小平池(現在の日子神社の境内)に住んでいたので“ながた山”の名が起こったと思われます。

これから始めるお話は、竜神が長い病気で仕事も思うようにできず静かに暮らしていた頃のお話です。

竜神には、10才の男の子と8才の女の子がいました。でも村人たちはまだ竜神の子どもたちの姿を見たことがありません。竜神は神様ですが2本の角と4本の足を持つ恐ろしい姿をした大蛇です。

春のはじめのある日、竜神のお父さんが暖かい日ざしを浴びてうたた寝をしていると、2人の子どもがそばによってきました。

「お父さん、お父さん起きてよ。ぜひ聞いてもらいたいことがあるから。」「眠たいな。もう少し寝かせてくれ。」と、その時しおからトンボがお父さんの鼻先に止まりそうになりましたのでお父さんは目を覚ましました。

「お願いしたいことがあると言ったね。いいとも、いいとも。おれも近頃病気があまり良くないのだよ。もう長くは生きられないだろう。かわいいお前たちのことなら何でも聞くことにしよう。」

「お父さん。このあたりの山はみんなお父さんが治めているのでしょう。」「そうだよ。この山を“ながた山”というだろう。それは主である自分の名をとった名だ。竜の前の名は“なが”と呼ばれていたからね。」

そして、竜神が言うには、自分が神様にまつりあげられたのは、恐ろしい力があるからだと誤解されているがそうじゃない。山・平野・特に海・川など大自然を必死になって守っているからだと言いのです。

「この山はいつも近所の村から、特に長田の村から子どもたちが連れ立って登ってくるでしょう。お父さんも知っているはずよ。」

「山のできごとならなんでも知っているよ。それは竜神としての大事な仕事だよ。」

「村の子どもたちは、可愛くて素直で行儀がいいよ。いろんなことを楽しくしゃべっているし、時にはきれいな声で歌っているよ。お父さん、村の子どもたちと遊びたいよ・・・」

「遠慮せんでもいい。山全体が自分の領地だ。この住まいにも自由に連れてきて、野いちご、ぶどう、やまももなど自由に食べ、きれいなお花はお土産に持たせてやってもいいよ。」

「お父さんありがとう。でも、でも・・・」と言って子どもはだまりこんでしまいました。

「どうしたんだ。どうしたんだ。なんでも言ってごらん。」


「でも私たちの竜のこの恐ろしい顔を見たら、村の子どもたちはこわがって山に寄り付かなくなってしまうかもしれないよ。」
と言い終わるや3人ともだまりこんでしまいました。

あたりは静かになりもんしろ蝶が4~5羽春風に乗って楽しく飛び回っているのがかえって寂しさを深めました。

沈黙を破って子どもが突然大声で「お父さん。お願い。私たちをしばらくでいいから人間の子供にしてちょうだい。」とたのみました。

この言葉には、竜神のお父さんもショックを受けたのかうなだれてしまいました。

「自分はいろんな術を心得ているが、お前たちを人間の子どもにすることはできないのだよ。」といいかけて、背振山の見える住居から20mほどの巨岩に登り、大声で呪文を唱えはじめました。

ややあって巨岩から急いで下り「さっきのこと、われわれ竜神の大王さまである豊前の英彦山の神様にお願いした。すると、2人の子どもを早速連れてくるようにとのことだ。何としても希望はかなえてくださるそうだ。」

「明日の朝決行するぞ。お前たちはおれの背中に乗っていればいい。だが人間の子どもになって帰ってくるまでは一口もものを言ってはならぬ。この約束を破ったら大王さまの怒りにふれて、3人共、普通のへびになってしまうぞ。わかったね。」

子どもたちは早速英彦山行きの準備をはじめ、夜のうちに椎の干し肉などお腹いっぱい食べ、深い眠りに落ちました。

2人が目をさますとからだの具合が少しおかしいように思いました。
「兄ちゃん、人間の子どもになっているよ。早よう起きて!目つきが少しきついけど。」

「何だ。お前はかわいい女の子だ。髪には赤いリボンまでつけているではないか。」

「やった!やった!ばんざーいばんざーい」

「お前たちがしっかり約束を守ったから大王さまは喜んで人間の子にして下さったんだ。竜太郎、竜子の名前まで頂いたよ。」

その日はどうしたことか、村の子どもたちが朝早くからわいわいさわぎながら“わらび取り”に登ってきました。

日曜日だったせいでしょう。竜太郎と竜子は長田の子どもたちを見つけると飛んで行って、これから友だちになることを約束し合いました。

そして竜神の子であることをつつみかくさず話しました。長田の子どもたちも、長田の村には昔竜神が住んでいたことを知っていましたので、よく分かり合い兄弟のように仲良くなりました。

それからは、村の子どもたちが山にやってきて、ワラビ、野いちご、ヤマモモ、谷がね(かに)や神様に供えた柴花、冬は薪とりなど、山をかけめぐってはお父さんお母さんの手助けをするようになりました。

その中には村の子どもたちと一緒に遊ぶ、竜太郎と竜子の楽しいそうな姿がありました。

    「有明文化圏断章」  鶴  記一郎著(個人出版)より。
by kusennjyu | 2010-12-28 08:52 | 芸術と文学・童話 |Topに戻る